
近年、マンションに設置された機械式駐車場が「使われない」「維持費が高い」「修理部品が入手困難」といった課題に直面し、撤去や平面化を検討する管理組合が増えています。
その中でも注目されているのが「鋼製平面化工法」です。
この工法は、建物や地盤に余計な負荷をかけず、将来的な機械式駐車場の再建も視野に入れた柔軟な対応が可能です。
この記事では、鋼製平面化工法の特徴や施工方法、他工法との比較、メーカー選びのポイントについて学んでいきます。
鋼製平面化工法とは?

鋼製平面化工法とは、機械式駐車場を撤去した後の地下ピット(駐車装置の地下部分)に、鉄骨の柱や梁(はり)を組み立て、その上に鋼製の床板を設置することで、新たに平らな駐車場を作る工法です。
特徴としては、以下の点が挙げられます。
- ピット(地下空間)を埋め戻さないため、将来的に再び機械式駐車場を設置することが可能
- 鉄骨や鋼板を利用するため、比較的短期間で施工が完了
- 埋め戻し工法のように砕石を大量に投入する必要がないため、埋め戻し材の重みによる建物や周辺地盤への追加荷重や沈下などの悪影響を避けられる
また、この工法は「鋼製床工法」「鋼製床式」と呼ばれることもあり、業者や地域によって呼び名が異なる場合があります。
基本的には同じ工法を指しますが、名称の違いで誤解が生じないよう、打ち合わせの際には具体的な施工内容や仕様について確認することが大切です。
この工法は、将来的に機械式駐車場を再建する可能性を含むマンションや、建物や周辺地盤に陥没などの悪影響を避けたい場合に適しています。

なお、鋼製平面化工法や埋め戻しの他に、EPS工法やデッキスラブ工法などの平面化手法も存在します。ただし、これらの工法は施工コストが高く、維持管理の面でも課題があるため、一般的にはあまり採用されていません。また、既存の機械式駐車場を解体しない「平面化ロック」という選択肢もあります。
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機械式駐車場の平面化工事の流れ(フロー)
「鋼製平面化工法」「埋め戻し工法」といった、どの平面化工法を選んだ場合でも、まず最初に行うのは機械式駐車場の装置を解体・撤去する作業です。
この解体・撤去工程は、どの工法でも共通で必要になります。(平面化ロック工法の場合は不要です。)
平面化工事には「解体・撤去作業」と「その後の平面化工事」という二つの工程があるということです。
どの平面化工法を選んでも解体・撤去の費用は必ず発生することを理解しておきましょう!

機械式駐車場の平面化工事の見積りを取ると、通常は解体・撤去費用も含めた総額で提示されることがほとんどです。ただし、工事内容を正しく把握するためにも、見積書の内訳に「解体撤去費」が含まれているかどうかを確認しておくと安心です。
機械式駐車場を解体・撤去する手順
機械式駐車場の解体・撤去は、まず駐車装置を分解する作業から始まります。
装置は、ボルトを外したり、ガス切断を行ったりして部品ごとに取り外し、ラフタークレーンやカニクレーンで吊り上げ、搬出用トラックに積み込み、敷地外へ運び出します。
建物内や狭小地に設置された装置では、重機が天井や壁に接触しないよう慎重な作業が求められます。
また、地上複数段タイプの場合は高所作業も必要となり、安全対策も重要です。

このように、機械式駐車場の解体には一般住宅の解体とは異なる専門技術が必要であり、専門業者による対応が不可欠です。
この撤去作業が終わることで、ようやく平面化工事を始めることができます。





コスト削減する方法コツ!
基本的に「解体・撤去」と「平面化」は同じ工事業者に発注する場合がほとんどですが、分離発注することで費用削減が可能になる場合もあります。
さらに、間に入る業者(管理会社や機械式駐車場の点検業者など)を介さず、管理組合が直接工事業者に発注することで、中間マージンをカットでき、交渉もシンプルでスムーズになるため、コスト削減につながるケースもあります。
管理組合としては、こうした発注方法の違いによるコストやリスクも考慮しながら、管理会社以外の業者からも見積りを取り、比較検討することが望ましいでしょう。
鋼製平面化工法の施工手順

鋼製平面化工法の一般的な施工手順は以下の通りです。
- 仮設足場の設置
地下ピット内での作業や解体作業に必要な仮設足場を組みます。 - 機械式駐車場の撤去
駐車装置の機械部分を順次解体し、ラフタークレーンやカニクレーンなどで吊り上げ、搬出用のトラックに積み込みます。 - 地下ピットの清掃
解体完了後、地下ピット内を高圧洗浄機等で清掃します。 - ピット内作業(鉄骨組立)
ピット内に鉄骨の柱や梁を組み立てます。(既存の排水設備は残します。) - 鋼製床板の設置
鉄骨構造の上に鋼製の床板を敷設し、駐車ラインの塗装や車止めの設置を行います。 - 工事完了・利用開始
鋼製平面化による平面化の施工期間は駐車場の規模や周辺環境にもよりますが、1週間から2週間程度が一般的です。
※大規模な駐車場ではさらに日数を要する場合もあります。
各メーカーの違いと選択のポイント





一概に「鋼製平面化工法」といっても、実は使用される鋼材や構造はメーカーごとに異なり、いくつかの種類があります。それぞれのメーカーが独自の部材や構造を開発しており、強度や施工性、仕上がりの美観、コストなどに特徴があります。
鋼製平面化工法では、使用する部材や施工方法にメーカーごとの違いが見られます。
適切なメーカーを選択するためには、以下のポイントに注目することが重要です。
選択ポイント | 特徴 | 選び方 |
---|---|---|
接合方法 | 部材同士の接合にはボルト締結式と溶接式がある。 | ボルト式は補修が容易で維持管理に優れる。溶接式は施工時の熱でめっきが剥がれ耐食性に注意。 |
めっき加工 | 鋼板には防錆のためのめっき加工が施される。 | 標準の溶融亜鉛めっきに加え、ZAM®やZEXEED®など高耐食性製品も。使用環境に応じて選定。 |
床材の幅 | メーカーごとに床材の幅に違いがある。 | 幅が狭いほどたわみが少なく、一部交換がしやすいためメンテナンス性に優れる。 |
床材の向き | 床材の配置方向(車の進入方向に対して縦向きまたは横向き)がある。 | 一⾧一短があるため、施工前に業者へ相談することを推奨。 |
同じ「鋼製平面化工法」と呼ばれていても、メーカーごとの様の違いにより耐久性やメンテナンス性、将来的な対応コストが異なる可能性があります。
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他工法との比較
鋼製平面化工法以外にも、機械式駐車場の平面化には以下の工法があります。それぞれの特徴を比較します。
工法名 | 特徴 |
---|---|
鋼製平面化工法 (鋼製床工法・鋼製床式) | 鉄骨と鋼板を使用。再利用可能。施工期間短め。建物や周辺地盤への追加荷重や沈下などの悪影響を避けられる。 |
埋め戻し工法 | ピットを砕石で埋める。低コスト。砕石の重みで建物や地盤に追加荷重がかかり、沈下リスクがある。 |
平面化ロック工法 | 既存機械装置を残したままパレットを固定して使用停止。低コスト・短工期だが将来的に設備更新や解体が必要となり抜本的な解決にはならない。 |
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注意点と管理のポイント
鋼製平面化工法では、以下のような注意点があります。
- 床板の防錆・塗装メンテナンスが必要
鉄骨や鋼板を使用するため、長期的には錆びや塗装劣化への対応が求められます。 - 排水設備の維持が必要
平面化後も地下ピット内に雨水や地下水が溜まるため、排水設備はそのままになります。したがって、地下ピット内の排水設備(排水ポンプ等)の点検や交換が必要になるためそのためのコストを見込んでおく必要があります。 - ピット内部の安全管理
鋼製の床板の下にはピット空間が残り、点検やメンテナンスのために点検口が設けられますが、この空間は法令上、倉庫や居室として利用することはできません。(利用者が誤って立ち入らないように、通常は点検口が施錠やボルトなどで固定される構造とされています。)

鋼製平面化した駐車場は、機械式駐車場と異なり可動部がないため、定期的な点検は不要になります。ただし、鋼材でできている以上、どれほど高性能なめっき処理が施されていても、将来的に錆が発生する可能性は避けられません。そのため、いずれは表面のめっき部分に対する部分塗装や補修といったメンテナンスが必要になります。
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まとめ
鋼製平面化工法(鋼製床工法・鋼製床式)は、機械式駐車場を撤去した後も地下ピット構造をそのまま残し、将来的に再び機械式駐車場を設置できるという「再利用性の高い」平面化手法です。
この工法は、埋め戻し工法と比べて施工期間が短く、建物や周辺地盤への追加荷重や沈下リスクを回避できるというメリットがあります。一方で、初期費用がやや高めであること、そして排水設備の点検や鋼材の防錆塗装など、定期的な維持管理が求められる点には注意が必要です。
そのため、将来的な駐車場利用状況の見通しや、維持管理にかかるコストを総合的に考慮し、専門業者と相談しながら最適な工法を選ぶことが重要です。
特に、「再び機械式駐車場を導入する可能性がある」「埋め戻しによる地盤や構造への影響を避けたい」といった条件がある場合には、鋼製平面化工法は十分に検討に値する選択肢といえるでしょう。
投稿者プロフィール

- 機械式駐車場の維持管理・リニューアル・解体平面化等に関する専門的な情報提供や、無料コンサルティングを行っています。複雑で不透明になりがちな分野だからこそ、皆さまが納得して判断できるよう、わかりやすく中立的な支援を心がけています。
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