
マンションの機械式駐車場に空きが出ると、「どうせ使っていないのなら外部に貸して収入にできないか」と考える方もいるかもしれません。
一見、合理的なアイデアに見えますが、実は“税金”という大きな落とし穴が潜んでいます。
この記事では、機械式駐車場の外部貸し出しに潜むリスクと、実際に検討すべきポイントについて学んでいきます。
外部貸し出しが“収益事業”になる可能性
マンションの管理組合は、法律上「人格のない社団等」として位置づけられ、多くの場合、法人税は免除されています。
しかし、収益を目的とする事業を行うと課税対象となるため、注意が必要です。
とくに「駐車場業」に該当する行為は、国税庁が定める34種類の収益事業の1つとされており、外部貸し出しによって課税対象になる可能性があります。
国税庁の照会回答(平成24年2月3日付)
分譲マンションの駐車場を外部に貸し出すことが「収益事業」に該当するか否かについて、国土交通省住宅局長が国税庁課税部長に行った照会に対し、平成24年2月13日付で国税庁が文書回答を行っています。
内容は次の通りです:
- 区分所有者と外部者を同条件で先着順に募集
→ 駐車場の運営全体が「駐車場業」として収益事業に該当し、法人税の課税対象となる。 - 区分所有者優先、空き発生時のみ外部貸し
→ 外部貸し部分のみが収益事業に該当し、その部分だけ課税対象になる。 - 一時・臨時的利用(来客用など)
→ 継続性がなく、収益事業とはみなされず、課税対象外
参照:国税庁ホームページ
https://www.nta.go.jp/law/bunshokaito/hojin/120117/besshi.htm
税務対応で想像以上のコストが発生
仮に駐車場の外部貸しが「収益事業」とみなされた場合、法人税の申告・納税が必要になるだけでなく、さまざまな対応が必要となります。
それによって得られる収入よりも、むしろ負担の方が大きくなるケースも珍しくありません。
必要になる対応 | 内容 |
---|---|
確定申告 | 所得の申告書作成と提出が必要 |
税理士の依頼 | 税務処理を外部に委託する場合が多く、費用が発生 |
事務負担 | 会計処理、理事会報告など、管理業務が煩雑になる |

仮に外部貸しで月額1台1万円の収入があっても、税務処理に数十万円のコストが発生する可能性も。むしろ収益が帳消し、あるいは赤字になることも珍しくありません。
実際には見送られるケースがほとんど
筆者がこれまで関わった管理組合でも、「空いているから貸したい」という声は少なくありませんでした。
しかし実際には、ほとんどのケースで外部貸しは見送られています。
その理由は以下のとおりです。
- 数台分では収入が限られる
- 税務対応や税理士費用の方が高くつく
- 利用者トラブルや鍵の管理などの手間が増える
結果として、管理組合の負担が増すばかりで、大きなメリットが見込めないという判断になります。
それよりも、まずは居住者向けの内部利用を見直すことや、なぜ空きが発生しているのかの分析に注力することが、将来的に有益です。
空き区画の有効活用、他の選択肢は?
外部貸しにはリスクがありますが、空き区画を放置するのももったいない。そこで、次のような「内部向け」または「非収益型」の有効活用を検討するのも一案です。
- 住民向けに一時貸しスペースとして運用(収益事業外)
来客や引っ越し車両、一時的な利用ニーズに対応できます。 - 来客用駐車場として運用し利便性向上を図る
住民サービス向上につながり、満足度アップにも寄与します。 - 車離れ対策として駐車場利用アンケートの実施 → 利用促進へ
空きの原因を可視化し、必要に応じた施策(料金見直し等)に結びつけられます。 - 平面化して管理コストを削減する(機械式駐車場の撤去)
使われていない機械式駐車場は、維持費や点検コストがかさむだけでなく、老朽化による安全リスクもあります。 平面駐車場に転換することで、維持管理の手間を大幅に削減でき、空きスペースの有効活用にもつながります。また、附置義務の緩和などにより撤去が可能な地域も増えており、理事会としては将来的な選択肢として検討する価値があります。
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まとめ
機械式駐車場の外部貸し出しは、一見収益化のチャンスに見えますが、法人税課税や会計対応の煩雑さといったリスクが非常に高いのが実情です。
国税庁の定める「収益事業」に該当することで、課税対象となるだけでなく、確定申告や会計処理の負担が発生します。
特に、数台程度の空き区画では収入以上の負担になる可能性が高く、現実的ではありません。
軽率な判断は避け、必ず税理士や管理会社と相談した上で方針を決定することが、組合にとっても理事にとっても安心な選択です。
投稿者プロフィール

- 機械式駐車場の維持管理・リニューアル・解体平面化等に関する専門的な情報提供や、無料コンサルティングを行っています。複雑で不透明になりがちな分野だからこそ、皆さまが納得して判断できるよう、わかりやすく中立的な支援を心がけています。
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