
かつて利便性が評価され、多くのマンションに導入された機械式駐車場。しかし今では、空き区画の増加や高い維持コストが問題となり、見直しを迫られるケースが増えています。こうした背景から、機械設備を撤去し、平面駐車場へ転換する「埋め戻し工事」が注目を集めています。この記事では、埋め戻し工事の基本的な流れや工法の選び方、舗装の種類、検討時の注意点などをわかりやすく解説していきます。
なぜ今、埋め戻し?機械式駐車場が抱える問題とは
機械式駐車場は、車種制限があることや定期点検・修繕費の負担増といった課題を抱えています。特に深刻なのが、利用者の減少による空き区画の増加です。「使われていないのに維持費がかかる」という状況は、住民にとっても大きな不満材料となります。
こうした背景を受け、維持費の削減と誰でも使いやすい駐車場の実現を両立できる「平面化」が、現実的な選択肢として注目されているのです。
埋め戻し工事には2つの方法があります
現在、マンションで行われる埋め戻し工事では、コストと工期のバランスから「ピットを残して埋め戻す工法」が一般的です。しかし、地盤や用途によっては、より安全性を重視して「ピットを解体・撤去する工法」を選ぶケースもあります。
工法 | 内容 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
ピットを残して埋め戻す | ピット内に砕石や軽量材を詰めて埋める工法 | 工期が短く、比較的安価に施工できる | 地震時に沈下や液状化のリスクがある |
ピットを解体・撤去して埋め戻す | コンクリートや構造体を取り除いたうえで埋める | 地盤が安定し、安全性が高い | 費用と工期がかかり、騒音・振動の心配も |
それぞれにメリット・デメリットがあるため、敷地の状態や予算、今後の運用方針を踏まえた上で、慎重な検討が求められます。
埋め戻しによる平面化の流れ











舗装方法と選び方のポイント
舗装方法 | 特徴 | 適しているケース |
---|---|---|
アスファルト舗装 | 柔軟性があり、施工コストも比較的安く、工期も短い | 費用を抑えて早く仕上げたい場合 |
コンクリート舗装 | 耐久性が高く、水はけも良好でメンテナンス頻度が少ない | 長期的な使用を想定する場合、仕上がり重視の場合 |
舗装材の選定は、将来どれだけの期間使う予定か、維持管理にどれだけ手をかけられるかによって大きく変わります。施工業者からの提案をよく比較し、理事会で丁寧に検討することが大切です。
ターンテーブルの埋め戻し

ターンテーブルの平面化は、モーターや回転テーブルを撤去し、機械式駐車場の埋め戻しと同様に、空洞部分を土砂などで埋め戻す方法が一般的です。その後、アスファルトやコンクリートを用いて地面を整地・舗装し、周囲と段差のないフラットな状態に仕上げます。
埋め戻しで平面化する主なメリット
- 年間数十万円の維持費削減が可能になる
- 車種を選ばず誰でも使える柔軟な運用が可能
- 管理や点検の手間が減り、理事会や管理会社の負担軽減に
- 将来的にEV充電設備の設置がしやすくなり、マンションの付加価値向上にも貢献
埋め戻しによる平面化は、ただのコストカット策にとどまらず、将来のマンションのあり方を見据えた柔軟なインフラ整備でもあるのです。
他の工法と比べた、埋め戻しによる平面化の主なメリット
埋め戻し工法は、鋼製平面化工法などと比較して、以下のようなメリットがあります。
比較項目 | 埋め戻し工法のメリット | 鋼製平面化工法との違い |
---|---|---|
初期コスト | 比較的安価に施工できる | 鋼材や専用構造を用いる鋼製平面化は材料費・施工費が高め |
維持管理の負担 | 構造物がなく、維持費がほぼ発生しない | 鋼製構造は鉄部の再塗装などの定期的な維持管理が必要 |
施工後の自由度 | 完全な更地に近く、利用方法の変更がしやすい | 鋼材床はレイアウトや活用方法に制限が出やすい |
埋め戻し工法は、初期費用をできるだけ抑えながら、平面駐車場としての機能をシンプルに実現できる現実的な選択肢です。コスト面での負担を最小限にしたい管理組合にとって、有力な手法といえるでしょう。
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デメリットと注意点
埋め戻しには多くのメリットがありますが、見落としがちなポイントもあります。
- 地盤沈下や排水機能に問題がないか、事前の地盤調査が必要
埋め戻し工法はメリットの多い方法ですが、事前に調査を行い、地盤沈下や排水機能に問題がないかを確認することが不可欠です。これを怠ると、後々の舗装不良や水はけの問題などにつながる可能性があります。専門業者による調査を早めに実施することが、工事の成功を左右する重要なポイントです。
実施に向けた流れと法的な注意点
埋め戻し工事を行うには、まず地盤の状態や建物の構造を確認し、安全が確保できるかどうかを見極める必要があります。加えて、法的な側面として注意すべきなのが「附置義務条例」です。
この条例は、一定規模以上のマンションに対して所定の駐車場台数の確保を義務付けるもので、機械式駐車場の撤去や平面化を進める際には、自治体との事前協議が必須となります。
場合によっては、条例の要件を満たすために平面化後の台数確保の工夫や、代替案の提示が求められることもあります。スムーズな進行のためには、早い段階で自治体に相談し、必要な手続きを確認しておくことが大切です。
近年では車の保有率低下に伴い柔軟に対応する自治体も増えており、適切な手続きを踏めばスムーズに進められるケースも増えています。
まとめ
機械式駐車場の埋め戻しによる平面化は、初期費用を抑えながら維持管理の負担を大きく軽減できる、現実的かつ合理的な選択肢です。とくに鋼製平面化工法と比較した場合、構造物が残らず将来の使い方にも柔軟に対応できる点が大きな魅力です。事前の地盤調査や附置義務条例への対応といった法的・技術的な確認を怠らず、信頼できる専門家のサポートを受けながら進めることで、住民にとっても納得感のある計画が実現できます。将来的な活用方針やマンションの価値維持を見据え、丁寧な合意形成のもとで検討を進めていくことが大切です。
投稿者プロフィール

- 機械式駐車場の維持管理・リニューアル・解体平面化等に関する専門的な情報提供や、無料コンサルティングを行っています。複雑で不透明になりがちな分野だからこそ、皆さまが納得して判断できるよう、わかりやすく中立的な支援を心がけています。
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