
かつて利便性が評価され、多くのマンションに導入された機械式駐車場。しかし今では、空き区画の増加や高い維持コスト、車種制限といった問題が深刻化し、見直しを迫られるケースが増えています。
こうした背景から、機械設備を撤去し、誰でも使いやすい平面駐車場へ転換する「埋め戻し工事」が注目を集めています。
この記事では、埋め戻し工事のメリット・デメリット、基本的な流れや工法の選び方、技術的な特徴、法的な注意点などを網羅的に解説していきます。
- 1. なぜ今、埋め戻し?機械式駐車場が抱える問題とは
- 2. 埋め戻し工事の2つの方法
- 3. 「埋め戻し工法」の主なメリット
- 3.1. コスト面でのメリット
- 3.2. 運用面でのメリット
- 4. 「埋め戻し工法」のデメリットと注意点
- 4.1. 地盤への影響リスク
- 4.2. その他の制約
- 5. 舗装方法と選び方のポイント
- 6. ターンテーブルの埋め戻し
- 7. 埋め戻し工法の技術的特長
- 7.1. 埋め戻し材について
- 7.2. 排水対策の重要性
- 7.3. 工期について
- 8. 埋め戻しによる平面化の施工手順
- 8.1. Step 1: 機械式駐車場の解体撤去
- 8.2. Step 2: 埋め戻し工事
- 8.3. Step 3: 仕上げ舗装
- 9. 実施に向けた流れと法的な注意点
- 9.1. 事前の地盤調査
- 9.2. 附置義務条例への対応
- 10. 埋め戻しによる平面化はどのような場合に適しているか
- 10.1. 埋め戻し工法が適しているケース
- 10.2. 慎重な判断が必要なケース
- 11. 実際に比較!埋め戻し vs 他工法
- 12. 検討時に確認すべきポイント
- 13. まとめ
なぜ今、埋め戻し?機械式駐車場が抱える問題とは
機械式駐車場は、車種制限があることや定期点検・修繕費の負担増といった課題を抱えています。特に深機械式駐車場は、設置から年数が経過すると多くの課題を抱えがちです。
- 高い維持コスト: 定期点検費用、部品交換、修繕積立金など、年間数十万円のランニングコストが発生します。
- 空き区画の増加: SUVやミニバンなど、車高や車幅の大きい車に対応できない車種制限により、利用者が減少。
- 利用者の減少: 車の保有率自体の低下も、空き区画に拍車をかけています。
「使われていないのに維持費がかかる」という状況は、住民にとって大きな不満材料となります。こうした背景を受け、維持費の削減と誰でも使いやすい駐車場の実現を両立できる「平面化」が、現実的な選択肢として注目されているのです。
埋め戻し工事の2つの方法
埋め戻し工事には、大きく分けて2つの方法があります。
現在、マンションではコストと工期のバランスから「ピットを残して埋め戻す工法」が一般的です。一方、地盤や将来の用途によっては、安全性を重視して「ピットを解体・撤去する工法」が選ばれることもあります。
| 工法 | 内容 | メリット | デメリット |
| ピットを残して埋め戻す | ピット内に砕石や軽量材を詰めて埋める工法 | 工期が短く、比較的安価に施工できる | 地震時に沈下や液状化のリスクがある |
| ピットを解体・撤去して埋め戻す | コンクリートや構造体を取り除いたうえで埋める | 地盤が安定し、安全性が高い | 費用と工期がかかり、騒音・振動の心配も |
それぞれにメリット・デメリットがあるため、敷地の状態や予算、今後の運用方針を踏まえた上で、慎重な検討が求められます。
「埋め戻し工法」の主なメリット
ここでは、特に一般的である「ピットを残して埋め戻す工法」を中心に、主なメリットを解説します。
コスト面でのメリット
- 初期費用が比較的安価
砕石などの材料費が比較的低く、施工もシンプルであるため、初期コストを抑えることができます。他の平面化工法(例:鋼製平面化)と比べても経済的な選択肢といえます。 - 維持管理費が大幅に削減
年間数十万円の維持費削減が可能になります。機械設備がなくなるため、定期点検や部品交換が不要になります。コンクリートやアスファルト舗装により、長期間の使用に耐えられます。鋼製平面化(鋼製の床板を設置する工法)で必要となる床板の再塗装や防錆処理のコストも不要です。ただし、アスファルト舗装は約10年程度で劣化するため将来の再舗装が必要です。 - 排水設備が不要
地下ピット内の既存の排水ポンプは撤去となるため、排水ポンプのメンテナンス費用が不要となります。管理や点検の手間が減り、管理組合や管理会社の負担軽減につながります。
運用面でのメリット
- 荷重制限がない
(床板を設置する)鋼製平面化工法では設計上の耐荷重制限がありますが、埋め戻し工法では特に制限はありません。車種を選ばず誰でも使える柔軟な運用が可能になります。 - 将来的な設備拡張の可能性
埋め戻し工法では、跡地が完全な更地に近い状態となるため、利用方法の変更がしやすいというメリットもあります。
「埋め戻し工法」のデメリットと注意点
メリットの多い埋め戻し工法ですが、慎重に検討すべき課題も存在します。
地盤への影響リスク
- 荷重増加によるリスク
大量の砕石や土砂を地下ピットに投入するため、地盤が弱い地域や隣接構造物がある場合、周辺地盤の沈下や建物基礎のクラック等を引き起こす可能性があります。特にマンション建物に隣接するピットや建物地下の機械式駐車場では、埋め戻し荷重が設計荷重を超え建物に負担をかける恐れがあります。 - 地下水位変動によるリスク
地下水位の変動によるピット躯体の浮き上がりや沈下リスクがあります。特に周辺土壌に水が溜まりやすい場合、埋め戻したピットが地下水の浮力で持ち上がり舗装面が隆起したり、逆に沈下して陥没したりする恐れがあります。 - 事前の地盤調査が必須
地盤沈下や排水機能に問題がないか、事前の地盤調査が必要です。これを怠ると、後々の舗装不良や水はけの問題などにつながる可能性があります。専門業者による調査を早めに実施することが、工事の成功を左右する重要なポイントです。
「埋め戻し」で機械式駐車場より何トン重くなるかご存知ですか?

「埋め戻し」工法は、撤去前より格段に重くなります。安全な「鋼製平面化」工法との重量差をシミュレーターで比較してください。
その他の制約
- 将来的な機械式駐車場の再建が困難
一度埋め戻すと、再度機械式駐車場を設置するためには大規模な掘削が必要となり、現実的には不可能となります。 - 鋼製平面化と比較して工期が長い
埋め戻し工法は、砕石の搬入や転圧に時間がかかるため、施工期間が長くなる傾向があります。アスファルト仕上げは養生期間が短いため、コンクリート仕上げよりは工期が短縮されますが、鋼製平面化工法と比較して時間がかかる場合が多いでしょう。
舗装方法と選び方のポイント
| 舗装方法 | 特徴 | 適しているケース |
| アスファルト舗装 | 柔軟性があり、施工コストも比較的安く、工期も短い。約10年前後で劣化が見られ、定期的な補修が必要 | 費用を抑えて早く仕上げたい場合 |
| コンクリート舗装 | 耐久性が高く、水はけも良好でメンテナンス頻度が少ない。頻繁な補修なしに長期間利用できる | 長期的な使用を想定する場合、仕上がり重視の場合 |
舗装材の選定は、将来どれだけの期間使う予定か、維持管理にどれだけ手をかけられるかによって大きく変わります。施工業者からの提案をよく比較し、理事会で丁寧に検討することが大切です。
ターンテーブルの埋め戻し

ターンテーブルの平面化は、モーターや回転テーブルを撤去し、機械式駐車場の埋め戻しと同様に、空洞部分を土砂などで埋め戻す方法が一般的です。その後、アスファルトやコンクリートを用いて地面を整地・舗装し、周囲と段差のないフラットな状態に仕上げます。
埋め戻し工法の技術的特長
埋め戻し材について
一般的には砕石や再生砕石を使用します。再生砕石とは解体コンクリートなどを再利用した砕石で、環境に配慮しつつ安価に調達できる材料です。地盤が弱い場合や荷重を抑えたい場合、軽石など軽量骨材を用いることもあります。
排水対策の重要性
機械式駐車場の地下ピット部分はコンクリート製の「箱」構造になっていることが多いため、埋め戻し後に雨水や地下水が溜まらないよう配慮が必要です。
ピット躯体を残したまま埋め戻す場合は、施工前に周辺土壌の水位を調査し、必要に応じてピット底板や側壁に水抜き穴(コア抜き)を開けて排水経路を確保します。これにより、ピットに水が溜まるのを防ぎ、地下水の浮力でピット構造体が浮き上がったり、路面を押し上げたりする現象を防ぎます。
また埋め戻し後の路面には適切な勾配を付け、側溝や排水桝へ雨水が流れるよう仕上げます。
工期について
工期は施工現場への大型トラックによる砕石の搬入経路が確保されているか、また、ピットの深さによって大きな差が出ます。地下部分が2段式のような深いピットの場合には埋め戻し材の量が多いため、工期は長くなります。また、コンクリート仕上げとする場合はコンクリートの養生期間が必要なため、アスファルトより工期は長くなります。
埋め戻しによる平面化の施工手順
以下の手順は一例です。実際の施工では現場の状況に応じて適宜調整されます。
Step 1: 機械式駐車場の解体撤去
- 準備作業
現場に仮設足場を組み、安全措置を講じます。また、機械式駐車場装置の電源を遮断します。 - 解体撤去
重機や手作業で機械式駐車場装置を上部から順次解体します。錆びたボルトは緩めたりガスバーナーで切断し、重量物はクレーンで吊り降ろします。解体した部材はすべて搬出・処分します。 - 地下ピット清掃
解体後、地下ピット内を高圧洗浄し長年蓄積した汚れや油分を可能な限り除去します。ピット深さは数メートルに及ぶため、作業終了時にはフェンスで開口部を塞ぎ安全を確保します。
Step 2: 埋め戻し工事
- 排水設備の撤去
地下ピット内に設置されていた排水ポンプなどの排水設備を取り外し、搬出します。 - 排水対策
まず、地下ピット内に水が溜まらないよう、底や側面に水抜き穴を開けるなどの排水対策を講じます。 - ピットの埋め戻し
次に、地下ピット躯体(コンクリートの壁や底盤)の空間を砕石(再生砕石など)で埋め戻します。砕石は将来的な沈下を防ぐため、層状に投入しながら十分に転圧(締固め)を行います。
Step 3: 仕上げ舗装
埋め戻し後、地表を周辺地盤と同じ高さに整地し、アスファルト舗装またはコンクリート打設で平らに仕上げます。











実施に向けた流れと法的な注意点
埋め戻し工事を行うには、地盤の状態や建物の構造を確認して安全性を確保するとともに、法的な要件をクリアする必要があります。
事前の地盤調査
デメリットで挙げた地盤沈下や排水機能の問題を回避するため、事前の地盤調査が必須です。これを怠ると、後々の舗装不良や水はけの問題につながる可能性があります。
附置義務条例への対応
法的な側面として注意すべきなのが「附置義務条例」です。この条例は、一定規模以上のマンションに対して所定の駐車場台数の確保を義務付けるもので、機械式駐車場の撤去や平面化を進める際には、自治体との事前協議が必須となります。
場合によっては、条例の要件を満たすために平面化後の台数確保の工夫や、代替案の提示が求められることもあります。スムーズな進行のためには、早い段階で自治体に相談し、必要な手続きを確認しておくことが大切です。
近年では車の保有率低下に伴い柔軟に対応する自治体も増えており、適切な手続きを踏めばスムーズに進められるケースも増えています。
埋め戻しによる平面化はどのような場合に適しているか
埋め戻し工法は、コストを抑えて平面化できる現実的な選択肢ですが、すべてのケースに適しているわけではありません。
埋め戻し工法が適しているケース
- 将来的に機械式駐車場の再設置の可能性がない
- 比較的広く安定した敷地である
- 初期費用をできるだけ抑えたい
- 長期的な維持管理費を削減したい
- 荷重制限のない駐車スペースが必要
慎重な判断が必要なケース
- 地盤が弱い地域
- 都市部で隣接構造物が多い
- 地下水位の変動が大きい地域
- マンション建物に隣接するピットの場合
特に都市部や地盤が弱いエリアでは慎重な判断が必要です。専門家による十分な調査と検討を行った上で、最適な工法を選択することが重要です。
実際に比較!埋め戻し vs 他工法
平面化にあたって、同じ目的を持つ別の工法と比較することが大切です。ここでは、代表的な「埋め戻し工法」と「鋼製平面化工法」を比較します。
| 比較項目 | 埋め戻し工法 | 鋼製平面化工法 |
|---|---|---|
| 初期コスト | 比較的安価 | 材料費・施工費が高め |
| 維持管理 | メンテナンス不要 | 定期防錆・塗装が必要 |
| 将来対応 | 更地に近く用途変更が容易 | 構造が残り自由度が制限される場合あり |
| 工期 | やや長い | 比較的短い |
| 再設置 | 再設置は困難 | 構造変更の余地あり |
このように、目的・条件・将来ビジョンによって適切な工法選びが左右されます。特に、コスト優先・維持管理負担軽減・将来用途の柔軟性を重視するなら、埋め戻し工法は非常に有力な選択肢と言えます。
検討時に確認すべきポイント
理事会や管理組合で検討を進める際には、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
- 地盤調査の実施:
地下ピット構造、土質、地下水位、近接建物の影響など。 - 排水・浮力対策の設計:
地盤・地下水位変動による影響への備え。 - 舗装材と仕上がり仕様の検討:
アスファルトかコンクリートか、耐用年数・補修頻度・コストを整理。 - 駐車台数の確認:
平面化後も附置義務条例で定める台数を確保できるか、また住民説明のためのデータ整理。 - 工期・住民影響・仮設駐車場の確保:
工事中の代替駐車場、住民への説明・合意形成。 - 合意形成プロセス:
理事・住民への説明資料、アンケート、質疑対応などを計画。
まとめ
維持費の高さや車種制限に悩む機械式駐車場を埋め戻し、平面化することは、非常に現実的な解決策と言えるでしょう。初期費用を抑えられるだけでなく、将来の維持管理の負担からも解放されます。また、鋼製の床を設置する工法と異なり、障害物がない更地に近い状態になるため、将来の用途変更(駐輪場やEV充電器の設置など)にも柔軟に対応できるのが大きな魅力です。
もちろん、メリットばかりではありません。地盤への影響や地下水位によるリスク、一度埋めると機械式に戻すのが困難になる点、工期が長引く可能性などは、事前に理解しておくべき注意点です。
これらのリスクを避け、計画を成功させるためには、事前の地盤調査や、自治体の条例(附置義務条例)への対応が不可欠です。信頼できる専門家のアドバイスを受けながら、住民間での丁寧な合意形成を進めていくことが重要となります。
埋め戻し工事は、単なるコストカットではなく、マンションの将来の価値や利便性を見据えた大切な判断です。長期的な視点を持ち、全員が納得できる形で計画を進めていきましょう。

















