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【機械式駐車場】収入を「管理費」に使うと破綻する?修繕積立金に入れるべき理由と区分経理

【機械式駐車場】収入を「管理費」に使うと破綻する?修繕積立金に入れるべき理由と区分経理

「うちのマンションは管理費が安くて助かる」

そう思っているなら、少し確認が必要です。その安さは、本来将来のために積み立てるべき「駐車場収入」を、日々の管理費に充当して実現している可能性があるからです。

マンション管理において注意すべき「どんぶり勘定」のリスクと、長期的に安定した運営を行うための会計処理について解説します。

駐車場収入の「使い道」が収支に与える影響

管理組合の会計は、大きく2つに分かれています。

  • 管理費会計(日々の生活費)
    光熱費、清掃費、管理会社への委託費など、毎月かかる経費に使います。
  • 修繕積立金会計(将来への貯金)
    12年ごとの大規模修繕や、給排水管の更新、そして機械式駐車場の設備交換のために積み立てておくお金です。

機械式駐車場を持つマンションの場合、駐車場からの収入(使用料)をどちらの会計に入れるかで、将来の資金計画が大きく異なります。

なぜ「管理費会計」で処理するとリスクがあるのか

多くのマンションでは、駐車場使用料を「管理費会計」に入れ、そこからメンテナンス費用(保守点検費)を支払っています。

日常のメンテナンス費用を管理費から出すこと自体に問題はありません。

しかし、問題なのは「メンテナンス費を差し引いた『残りの利益』まで、日々の生活費(管理会社への支払いや清掃費など)に使ってしまっているケース」です。これには2つの構造的な問題があります。

問題点1:将来の更新費用が不足する

機械式駐車場は、25年〜30年後に装置ごとの全交換(リニューアル)が必要になります。1パレットあたり100万円以上かかる大規模な工事ですが、駐車場から出た利益を日々の管理費の補填で使い切ってしまうと、いざ交換時期が来た時に資金が不足する事態になりかねません。

問題点2:収支の悪化が見えなくなる

駐車場収入で管理費の不足分を補填していると、管理費会計自体が赤字体質であることに気付けない場合があります。空き区画が増えて駐車場収入が減った際、マンションの会計全体が急速に悪化するリスクがあります。

国土交通省が推奨する「区分経理」とは

国土交通省の「マンション標準管理規約」のコメント(解説)では、機械式駐車場について以下のような方針が示されています。

「駐車場使用料は、その管理に要する費用(保守点検費など)を充てた残額を、修繕積立金として積み立てることが望ましい」

つまり、駐車場収入からメンテナンス費を払うのは良いとして、「残った利益」は修繕積立金に移すべきという考え方です。

これを明確にするために、管理費や修繕積立金とは別に、駐車場だけの収支を管理する「駐車場特別会計(区分経理)」を設けるのが理想的です。

正常化へのハードルと対策

「では、駐車場の利益を修繕積立金に移そう」と考えても、実行にはハードルがあります。これまで駐車場収入(利益)頼みだった「管理費会計」が、移したことで赤字になってしまうからです。

これを解消するには、以下の検討が必要です。

  • 管理費を値上げする: 住民の毎月の負担増となります。
  • 管理サービスを見直す: 清掃頻度や仕様を見直し、支出を削減します。

どちらも合意形成が難しいため、現状維持のまま先送りされてしまうケースが少なくありません。

検討を進めるための材料

この難しい改革を検討するにあたり、判断材料として以下の視点が役立ちます。

1. 外部貸し出し時の「税務上のメリット」

将来、空き区画を外部へ貸し出す(収益事業を行う)場合、法人税が課税されます。

この際、区分経理をしていないと「経費」の算出が複雑になります。区分経理で駐車場の収支を明確にしておけば、維持費や装置の減価償却費を正確に「原価(損金)」として計上でき、税負担を適正に抑えられる可能性があります。

2. 「適正な料金設定」や「撤去」の判断材料

どんぶり勘定のままでは、現在の駐車場使用料が妥当なのか、それとも安すぎるのかが判断できません。

区分経理によって「駐車場単体の収支」を明らかにすることで、「このままでは将来の更新費用が足りない」という事実が数字として見えます。これが、駐車場使用料の値上げや、維持費のかからない平面駐車場への変更(撤去・埋め戻し等)を検討するための、唯一の客観的な根拠(エビデンス)になります。

段階的な見直しの手順

いきなり全額を移行するのが難しい場合、段階的な見直しをお勧めします。

ステップ1:収支の「見える化」

まずは会計を分けなくても良いので、計算上で「駐車場収入」と「駐車場維持費」を出し、現状の実質的な収支バランス(いくら利益が出ているか)を把握します。

ステップ2:余剰分の振替

駐車場収入のうち、メンテナンス費や管理費の補填に必要な最低限の分以外は、すべて修繕積立金会計へ振り替えるルールにします。

ステップ3:徐々に管理費是正

時間をかけて管理費を適正な水準(駐車場収入に依存しない金額)まで見直し、最終的に「駐車場の利益全額」を修繕積立金に回せるようにします。

参考資料

  • マンション標準管理規約(単棟型) – 国土交通省※第29条関係のコメントにおいて、機械式駐車場使用料は「修繕積立金として積み立てることが望ましい」と記述されています。

まとめ

機械式駐車場からの収入は、余剰資金ではありません。

それは、将来必要となる更新工事に備えるための、機械式駐車場自身が稼ぎ出した「消耗分の対価(減価償却費)」と言えます。

これを使い切ってしまうことは、将来へのつけ回しになりかねません。

すぐに会計を分けることは難しくても、まずは「今の管理費の安さは、将来の修繕費を取り崩して成り立っている可能性がある」という現状を、理事会で共有することから始めてみてください。

記事の編集者


編集部

マンション管理の適正化を目指す一般社団法人。「機械式駐車場の相談窓口」を運営し、中立的な立場から管理組合をサポートしています。
記事は、専門的な知見に基づく事実確認を徹底し、正確かつ公正な情報を発信できるよう編集部全体で制作しています。

記事の編集者


山田 俊介

機械式駐車場の構造や仕様を知り尽くした技術スペシャリスト。 専門性が高く不透明になりがちなメンテナンス費用や修繕見積もりを、プロの目で厳しくチェックします。「本当に必要な工事か」「価格は適正か」を機械的な根拠に基づいて判断し、管理組合様の利益を守ります。

記事の編集者


Hidekazu Ishikawa
佐藤 由香里

機械式駐車場の解体・平面化を専門とする企業での役員経験を持つ。 専門的な施工知識をベースにしつつ、理事会や住民の皆様が抱く「不安」を「安心」に変える丁寧な対話を大切にしています。女性ならではの柔らかい物腰と生活者の視点で、工事完了まで親身に伴走します。

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Hidekazu Ishikawa
永井 和也

マンション管理士

機械式駐車場の解体・平面化専門企業の元執行役員。
「工事の技術的判断(ハード)」と「管理組合の合意形成・規約改正(ソフト)」の両面に精通したスペシャリストです。複雑な利害関係を整理し、理事会が迷わずに進めるための「全体最適」な解決策を提示します。


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