
マンションの機械式駐車場を撤去して平面化する際、床に使われる鋼板は、いずれも鉄を基材とし、その表面に異なるめっき処理が施された「めっき鋼板」です。めっきの成分や処理方法の違いによって、サビに対する強さ(耐食性)や耐久性、施工のしやすさに差が生まれます。
現在の平面化工事では、「溶融亜鉛めっき鋼板(GI)」「ZAM®(日本製鉄)」「ZEXEED®(日本製鉄)」といった高耐食性めっき鋼板が一般的に使用されており、いずれも信頼性のある素材です。ただし、どの素材を採用するかは施工会社によって異なり、理事会として「何を基準に選べばよいか?」と迷われるケースも少なくありません。
この記事では、代表的な3種のめっき鋼板の特徴や性能を比較しながら、理事会や管理組合が素材選びで押さえておきたいポイントを、やさしく丁寧に解説していきます。
「耐食性」とは?
まず知っておきたいのが「耐食性」という言葉の意味です。
耐食性とは、金属がサビなどの腐食にどれだけ強いかを表す性能のことです。鉄は水分や空気、塩分などに触れるとサビてしまいますが、耐食性の高い素材はサビの進行を防ぎ、長く安全に使うことができます。
駐車場の床材は屋外で使用されることが多く、雨や泥、車のオイルなどでサビやすい環境にさらされます。そのため、鋼製平面化工事においては耐食性の高いめっき鋼板が選ばれているのです。
めっき鋼板の比較表(用途・構成・性能・コストなど)
比較項目 | 溶融亜鉛めっき鋼板(GI) | ZAM®(日本製鉄) | ZEXEED®(日本製鉄) |
---|---|---|---|
主な使用分野 | ガードレール、フェンス、建築資材など | 建材、自動車部品、産業機械など | 土木・インフラ、鋼製床、過酷環境下の建築部材など |
めっきの組成 | 亜鉛(Zn)100% | 亜鉛(Zn)+ アルミ(Al)+ マグネシウム(Mg) | 亜鉛(Zn)+ アルミ(19%)+ Mg(6%)+ 微量Si |
平坦部の耐食性 | 標準レベル | GIの約10~20倍 | GIの約10倍、ZAM®の約2倍 |
切断面の耐食性 | やや弱い | 優れている | 非常に優れている |
加工部の耐食性 | 加工部でサビが出やすい | 加工後も皮膜が形成され、保護される | 加工後も高い保護性能を維持 |
コスト感 | ◎(安価) | ○(中程度) | △(やや高め) |
適した使用環境 | 屋内や腐食の少ない屋外 | 一般的な屋外環境、軽度の塩害・酸性雨の地域など | 沿岸部、重度の酸性雨、雪・凍結、凍結防止剤の影響がある場所など |
素材選定における補足ポイント
溶融亜鉛めっき鋼板・ZAM®・ZEXEED®のいずれも、滑り止め用途として「縞板」などの柄加工が施された製品があり、滑りにくさの点では同等に対応可能です。
ここで注意したいのは、歩行者や車両の「滑りにくさ」は、めっきの種類ではなく、表面の「柄(縞板など)」に大きく左右されるということです。つまり、どの素材であっても適切な滑り止め柄が施されていれば、安全性に大きな違いは出にくいということです。
また、実際の環境では「カタログ値通りの耐食差」が出ないことも多いため、コストバランスを重視するのが現実的です。
たとえば、床板に落ちたオイルや小石によって表面が傷つくことで、めっきの保護力が局所的に失われることがあります。こうした使用状況では、素材スペックよりも、将来の補修しやすさなどが実用性に直結するため、冷静な見極めが重要です。
さらに補足すると、以前の機械式駐車場で主流だった「塗装仕上げ」と比べると、どのめっき鋼板も飛躍的に耐食性が高いため、素材に過度なこだわりを持たなくても十分実用的です。
過酷な環境に強いZEXEED®やZAM®を選ぶ選択肢もありますが、最終的にはコストと性能のバランスを取りながら、用途に応じた判断を行うのが現実的な選定方針といえるでしょう。
実使用環境での注意点
ZAM®やZEXEED®のような高耐食性めっき鋼板は、カタログ上では非常に優れた耐食性能が示されていますが、実際の使用環境ではその性能差が体感しづらいケースもあります。
特に、鋼製平面化工法の床板は以下のような過酷な条件にさらされることが多くあります:
- 車両のタイヤによる繰り返しの荷重や摩耗
- 小石や砂利を踏むことで生じる表面の傷
- エンジンオイルやブレーキ液などによる局所的な腐食
- 雨水や泥が溜まりやすい長時間の湿潤状態
こうした環境では、どのめっき鋼板であっても床板に錆が生じるケースもあり、結果としてカタログスペックほどの耐食差が実感できないことも多いのが現実です。
理事会での選定のヒント
- コストを抑えたい場合
溶融亜鉛めっき鋼板(GI)は価格が安価で、標準的な環境では十分な性能があります。 - 長持ちさせたい・メンテナンスを減らしたい場合
ZAM®やZEXEED®は高耐食性で、メンテナンスの頻度やコストを抑える効果が期待できます。 - 海沿いや雨の多い地域では
ZAM®やZEXEED®のような高耐食性鋼板が安心です。 - 皮膜厚の確認を忘れずに
同じめっき処理でも、皮膜が薄いと耐久性が落ちる可能性があるため、μm単位の仕様をチェックしましょう。
製品情報の参照リンク
各素材の公式製品情報はこちらから確認できます:
まとめ
機械式駐車場の平面化で使われる鋼板は、鉄の表面に施されためっき処理の違いによって、サビへの強さが大きく異なります。
「溶融亜鉛めっき」「ZAM®」「ZEXEED®」はいずれも高耐食性の素材であり、皮膜の厚さや表面の柄、使用環境との相性を見ながら選定することが重要です。
いずれにしても、従来の塗装仕上げと比較すると、どのめっき鋼板でも明確に耐久性が向上しているという点です。つまり、ZAM®やZEXEED®のような上位グレードも選択肢として魅力ですが、必ずしもそれらに固執する必要はありません。
実際の使用環境では、カタログ値どおりの性能差が発揮されにくいこともあるため、コストとのバランスを重視するのが現実的です。
必要な性能を見極め、過剰なスペックではなく、適正な品質とコストのバランスを取ることが、理事会としての賢明な判断につながります。