
いつもお読みいただきありがとうございます。機械式駐車場の相談窓口です。
私たちは日々、多くのマンション管理組合様から機械式駐車場に関するご相談を承っております。その中で、平面化や入れ替えといった大規模な改修をご検討されている管理組合様からは、問題解決に向けた非常に熱心な想いと、時に私たち専門家も舌を巻くような独自のアイディアを伺うことがあります。
私たちが現地調査(現調)に伺い、理事の皆様から現状やご希望をヒアリングする時間は、私たちにとっても非常に貴重な学びの場です。「どうにかしてこの問題を解決したい」「組合員の皆様の負担を少しでも減らしたい」という強い情熱に触れ、私たちも「できない」という固定概念にとらわれず、あらゆる可能性を模索しなければと身が引き締まる思いです。
今回は、そうした積極的な管理組合様からいただいた、まさに「カスタム案」とも呼べる2つのユニークなエピソードをご紹介しつつ、機械式駐車場の課題解決における大切なポイントについて考えてみたいと思います。
エピソード1:撤去費用ゼロ? 驚きの「独自固定化」案
最初にご紹介するのは、「機械式駐車場を撤去せずに平面化したい」という、コスト削減に主眼を置いた管理組合様からのご相談です。
- 管理組合様のご希望
「機械式駐車場の撤去には費用がかかる。どうにかして、その撤去費用をかけずに平面化できないものか。今ある機械はピット内にそのまま残し、動かないようにピット内部で固定する。その上から、床板(鉄板)を被せてしまえば、撤去費用が浮くのではないか?」 - 専門家としての見解
撤去費用という大きな初期コストを抑えたい、というお気持ちは痛いほど分かります。一見、非常に合理的な発想に思えますが、専門家の視点から見ると、落とし穴となり得るいくつかの課題が浮かび上がりました。
「固定化」は一時的な延命措置
まず大前提として、機械式駐車場の「固定化」(機械を動かないようにすること)は、あくまで一時的な延命措置です。将来的に撤去や入れ替えが必要になる可能性は残ります。
見落とされがちな「固定作業」のコスト
ピット内で複雑な構造を持つ機械を、「安全に」「長期間問題が起きないように」固定する作業は、実は皆様が想像されるよりも高度な技術と手間が必要です。場合によっては、中途半端に撤去するよりも費用がかかる可能性さえあります。
「スクラップ代」という見えないメリット
最も大きなポイントは、「スクラップ代」です。機械式駐車場を正規の手順で撤去した場合、その鉄骨は「鉄資源」として売却できます。この売却益(スクラップ代)は、工事費用から差し引かれます。 しかし、機械をピット内に残してしまうと、本来なら管理組合様の収益(あるいはコスト削減)となるはずのスクラップ代が発生しません。
専門家からのアドバイス
上記の結果、ピット内で固定する作業費と、本来得られるはずだったスクラップ代が反映されないことを考慮すると、「撤去せずに固定して床板を乗せる案」は、「最初からすべて撤去して鋼製平面化工法を行う案」と比べて、総額がほとんど変わらないか、場合によっては撤去するより高くなってしまう、という試算になりました。
「撤去費用をかけない」というアイディアは魅力的ですが、トータルコストで見ると、必ずしも最善の策とはならないケースがあるのです。
エピソード2:もっと大きな車を! 夢の「嵩上げ」カスタム案
次にご紹介するのは、「少しでも大きな車を停められるようにしたい」という、利便性向上を目指した管理組合様からのご相談です。
- 管理組合様のご希望
「最近の車は大型化しており、今の機械式駐車場では入らない車が増えて困っている。そこで、既存の機械式駐車場(車が乗るパレット)の上に、さらに柱や梁を組んで鉄骨の床板を載せ、嵩上げすることはできないか? そうすれば車高の高い車も停められるようになるのではないか?」 - 専門家としての見解
駐車できる車種を増やしたい、というご要望は、マンションの資産価値を維持・向上させる上でも非常に重要です。この「嵩上げ」案も、構造上、技術的に「絶対に不可能」というわけではないかもしれません。しかし、ここには安全性を揺るがす大きな落とし穴が潜んでいました。
「重量制限」という安全上の絶対的な壁
機械式駐車場には、安全に昇降・移動できる「重量制限」が厳格に定められています。これは、「車が乗るパレット」と「駐車する車本体」の合計重量で設計されています。
追加する「鉄骨」の重さ
ご希望の「嵩上げ」を実現するためには、当然ながら柱・梁・床板といった「鉄骨」を追加する必要があります。この追加した鉄骨の重量も、すべて機械式駐車場の耐荷重にかかってきます。
専門家からのアドバイス
例えば、お使いの機械式駐車場の耐荷重が2,000kgだったとします。 嵩上げのために追加した鉄骨の重量がもし500kgあった場合、その機械が安全に停められる車の重量は、
2,000kg(耐荷重) – 500kg(追加鉄骨) = 1,500kg(駐車可能な車の重量)
となってしまいます。
結果として、車高(ハイルーフ)はクリアできても、今度は重量制限で「むしろ以前より小さな(軽い)車しか停められない」という、本末転倒な事態を招く可能性が非常に高いのです。
その熱意、無駄にしません。一緒に「最適解」を見つけましょう。
まとめ
今回ご紹介した2つのエピソードは、どちらも「どうにかして現状を良くしたい」という管理組合の理事の皆様の、真剣な想いから生まれたアイディアです。私たちは、その熱意や、ご自身たちで懸命に考えられたお気持ちを、決して否定するつもりはありません。
むしろ、こうした私たち専門家では思いもよらないようなアイディアに触れるたび、固定概念にとらわれず、あらゆる角度から物事を検討することの大切さを改めて勉強させていただいています。
しかし、機械式駐車場は、毎日重い車を動かし、皆様の大切な資産と安全をお預かりする重要な設備です。
良かれと思った独自の「カスタム」が、一見するとコスト削減や問題解決の近道に見えたとしても、安全性、将来的なメンテナンス性、そしてトータルコスト(費用対効果)といった専門的な観点から多角的に検証しなければ、思わぬリスクを生んでしまう可能性もあります。
「自分たちでこんな案を考えてみたんだけど、専門家から見て本当に安全か、損しないか教えてほしい」 「コストは抑えたい。でも安全性は絶対に妥協したくない」 「いろいろな業者から提案を受けたけど、どれが一番良いのか分からない」
機械式駐車場の課題や解決策で迷ったら、そのアイディアを形にする前に、ぜひ一度、私たち「機械式駐車場の相談窓口」へご連絡ください。
管理組合様の熱意とアイディアを無駄にせず、最大限に尊重し、そこに専門家としての知見と経験を掛け合わせることで、皆様にとっての「最善の解決策」を一緒に見つけていくお手伝いをさせていただきます。













