
機械式駐車場の解体・平面化を検討する現場で、理事会や総会の議論によく出る質問があります。
「今後、駐車場の利用者数はどうなる見込みですか?」 「世間では『車離れ』が進んでいると聞きます。それを裏付けるデータはありませんか?」
巨額の費用がかかる駐車場の解体・平面化を判断するために、客観的な「裏付け」が欲しいというお気持ちは痛いほど分かります。
しかし、多くの方が期待するような「日本全国で、今後これだけ車が減っていきます」という分かりやすい資料は、実に見つけにくいのが現状です。
この記事では、なぜその資料が見つからないのか、そして私たちは「車離れ」という言葉の代わりに、本当に注目すべき点は何なのかを解説します。
なぜ「車離れ」の資料は見つからないのか
「車離れ」と一口に言っても、その実態は非常に複雑です。私たちが「車離れを証明する資料」を簡単に見つけられないのには、いくつかの理由があります。
- 自動車保有台数自体は、実は減っていない
日本自動車工業会の統計によると、全国の自動車保有台数はここ10年ほぼ横ばいで推移しています。特に軽自動車と小型SUVの登録数はむしろ増加傾向にあります。「車離れ」という言葉のイメージとは裏腹に、日本自動車工業会の統計によると、全国の自動車保有台数はここ10年ほぼ横ばい、むしろ微増傾向にあります。特に軽自動車と小型SUVの登録数は増加傾向です。 確かに、都市部の若年層を中心に「車を持たない」ライフスタイルは増えています。しかし、地方では車が生活必需品であり、また世帯の分裂(核家族化)によって世帯あたりの台数が増える側面もあります。 全国統計で見ると、「車が減っている」という事実は明確には表れてこないのです。 - 問題は「所有」ではなく「利用ニーズの変化」
私たちが肌感覚で感じている「車離れ」の正体は、車の「総数」の減少ではありません。それは「車の使い方」や「求められる車の種類」の変化です。- カーシェアリングやサブスクリプションの普及
- 公共交通機関の発達した都市部への人口集中
- 高齢者の免許返納の増加
本当に注目すべきは「ミスマッチ」

機械式駐車場の問題において、私たちが「車離れ」という曖昧な言葉以上に注目すべき本質。それは、「古い機械式駐車場」と「現代の利用者ニーズ」との間に生じている、深刻なミスマッチです。
管理組合様が探すべきデータは、全国の曖昧なトレンドではなく、ご自身のマンションで起きている「具体的なミスマッチの証拠」です。
1. 規格のミスマッチ(サイズ・重量)
最も深刻な問題です。 従来の機械式駐車場の多くは、15〜20年以上前に主流だった「5ナンバーセダン」(例:カローラ、サニー)を基準に設計されています。
しかし、現在の人気車種はどうでしょうか。
- 大型化: SUVやミニバン(アルファード、ハリアーなど)が主流です。
- 重量化: ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)は、重いバッテリーを搭載するため、車重が2トンを超えることも珍しくありません。
結果として、「駐車場は空いているのに、自分の買いたい車が入らない」という居住者が続出しています。これが利用率低下の最大の要因となっているケースは非常に多いのです。
2. コストのミスマッチ(維持費 vs 利用料)
機械式駐車場は、維持管理費(メンテナンス費、部品交換費)が非常に高額です。 一方で、利用率が低下すると、駐車場使用料の収入は減少します。
(支出)維持管理費 > (収入)駐車場使用料
この赤字が続けば、いずれ管理費や修繕積立金全体を圧迫します。「高いお金を払って維持しているのに、利用者が少ない」というコストのミスマッチは、組合の財政問題に直結します。
3. 利用体験のミスマッチ(手間 vs 利便性)
- 「車を出すまでに数分間の待ち時間が発生する」
- 「操作パネルが古くて操作が難しい、雨の日に濡れる」
- 「近隣の月極平面駐車場の方が安くて便利」
カーシェアや、近隣の安価な平面駐車場といった「代替手段」が増えた現代において、利用者はよりシビアに駐車場の利便性を評価します。不便で高価な機械式駐車場が選ばれなくなるのは、当然の流れとも言えます。
まとめ:私たちが分析すべき「生きたデータ」
「車離れ」という言葉に惑わされ、見つからない全国統計を探し続ける必要はないかもしれません。
機械式駐車場の将来性を判断するために本当に必要なのは、全国のトレンドではなく、ご自身のマンションの「生きたデータ」です。
- 現在の正確な利用率(契約率)
- 駐車場待ち(空き待ち)の人数はいるか?
- サイズ制限(特に重量)を超えてしまう車が何台あるか?
- 過去10年間の維持管理費と、今後の修繕積立金の収支予測
- 近隣の月極駐車場の相場と空き状況
これらの「固有の事実」こそが、将来の利用者数を予測し、解体・平面化という大きな決断を下すための、何より強力な「資料」となります。
もし、「どう分析すればいいか分からない」「収支予測が難しい」とお悩みの場合は、ぜひ一度、「機械式駐車場の相談窓口」にご相談ください。皆様のマンションの実態に即したご提案をさせていただきます。













