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メリットばかりではない? 機械式駐車場「平面化」計画が直面する、知られざる落とし穴

メリットばかりではない? 機械式駐車場「平面化」計画が直面する、知られざる落とし穴

機械式駐車場の平面化は、管理組合にとって「維持費の削減」「将来不安の解消」「安全性や利便性の向上」など、多くのメリットをもたらす選択肢です。インターネット上にも、成功事例やメリットを解説する記事は多く見られます。

しかし、私たちはコンサルタントとして、計画がうまく進まない事例も経験してきました。

数年かけて準備した計画が総会で否決されたり、コストや工法選定を誤った結果、施工後に問題が見つかり、損失を生んでしまったり。

平面化は、計画すれば必ず成功するものではありません。この記事では、私たちが経験したり見聞きしたりした具体的な事例をもとに、計画推進に潜むリスクについてお話しします。

ケース1:「あと一歩」で計画が頓挫。合意形成の難しさ

これは、私たちが2年半にわたり、あるマンション管理組合の理事会と進めてきた計画での出来事です。

老朽化した機械式駐車場の問題を解決するため、住民アンケートの実施、工法の比較検討、長期修繕計画への影響試算、業者の選定まで、入念な準備を重ねました。理事会内では全員の合意を得て、入念な議案や資料を手に総会へ臨みました。

ところが、総会の場で状況が変わります。

「計画が性急すぎる」「まだ使えるものを壊すのはおかしい」「車を持たない人に負担を強いるのか」

一部の住民から反対意見が上がりました。

理事会は準備した資料に基づき、コスト削減効果や将来性といった論理的なメリットを説明しました。しかし、反対意見は感情的な反発が中心で、論理的な根拠に基づくものではありませんでした。

一度反対の流れが生まれると、その場の空気はなかなか変わりません。時間をかけた計画は、「否決」という結果に終わりました。

考察:計画の「正しさ」だけでは不十分

この計画は、数字上も技術的にも問題はありませんでした。しかし、「住民感情への配慮」という点で、十分ではありませんでした。

理事会が「コストメリット」という論理で説得しようとしたのに対し、反対意見の本質は「変化への不安」といった感情的なものでした。

平面化のような大きな計画では、数字上の正しさだけでなく、「普段はあまり意見を言わない人々がどう感じているか」を丁寧に把握し、不安を解消していくプロセスが必要です。

ケース2:「安さ」が招いた施工不良。鋼製平面化工法のリスク

次にご紹介するのは、私たちが直接関わった案件ではありませんが、最終的に事後処理のご相談をいただいた事例です。

近年、ピットをコンクリートで埋め戻さず、鉄骨の土台の上に鋼製の床を設置する「鋼製平面化工法」が普及しています。工期が短く、設置環境を選ばない点が評価され、採用されることが多い平面化工法です。

ある管理組合が、平面化では主流となっている鋼製平面化工法を採用しました。

しかし、施工から数年で問題が表面化します。

  • 床の鋼板が歪み、車が通るたびに音が響く
  • 想定より早く鉄骨に錆が広がり、耐久性が疑われる状態に
  • 床の一部に水が溜まり、見栄えが悪く、車の乗り降りに支障が出た

調査の結果、使用素材の防錆処理や耐久性に不足があることが確認されました。

管理組合は対応を迫られました。結局、私たちが間に入り、施工されたばかりの鋼製平面をすべて撤去し、品質に信頼のおける別メーカーの工法で再度、平面化工事をやり直すことになりました。

考察:価格には必ず理由がある

この失敗の原因は、「業者選定の難しさ」にあります。

しかし、理事会などの一般の方が、鋼製平面化の業者ごとの違いを見分けるのは容易ではありません。有名メーカーだから良い、価格が高いから安心とは一概に言えないのが実情です。

その業者の施工実績や、施工後5年、10年経過した現場の状況を確認せずに判断してしまった結果、撤去費用と再施工費用という二重のコストを支払うことになりました。

ケース3:「見えない」部分の手抜き。埋め戻し工法の陥没リスク

鋼製平面化工法だけでなく、「埋め戻し工法(ピットを土砂で埋め、アスファルト等で舗装する工法)」においても、トラブルは発生します。

埋め戻し工事完了後、数年が経過してから、舗装したアスファルトが陥没するというケースです。施工直後はきれいに見えても、雨が降った後などに路面が波打ったり、部分的に沈み込んだりします。

原因は、施工時の「見えない部分」での施工不良です。

  • 転圧不足
    ピットを土砂で埋める際、土を層状に入れながら締固める作業が不可欠です。この転圧が不十分だと、土の内部に隙間が残り、年月の経過とともに雨水などで土が締まり、地盤沈下(陥没)を引き起こします。
  • 水抜きの未処理
    コンクリート製の地下ピットの壁や底に、適切に水抜き穴(コア抜き)を開けていないと、ピット内に水が溜まり続けます。これが埋めた土砂の流出を招いたり、地盤を不安定にさせたりして、陥没の原因となります。

考察:完了時に見えない「品質」をどう担保するか

埋め戻し工事は、完成すると内部の施工品質は確認できません。だからこそ、業者の誠実さと技術力が問われます。「転圧をしっかり行う」「水抜き穴を適切に設ける」といった基本的な作業が十分に行われていないケースもあり、その結果、見かけ上は工事費が抑えられていても、後から不具合が生じてしまうことがあります。

ケース4:「水」が引き起こす隆起。EPS工法の注意点

土砂の代わりに軽量な発泡スチロールブロックを充填する「EPS工法」。これは駐車場の平面化では、一般的な工法ではなく、採用されるケースは多くはありませんが、工期短縮や、地下構造物への重量負荷を軽減できるメリットがある工法です。

しかし、この工法にも特有のリスクがあります。

それは、地下ピット内に水が入り込んだ場合に発生します。周辺の地盤から地下水が浸入したり、排水処理が不十分だったりすると、ピットに水が溜まります。

すると、水よりも軽い発泡スチロールブロックは、浮力を受けます。その力により、上に敷かれたコンクリートやアスファルト舗装ごと、地面の隆起が発生する場合があります。

一度隆起してしまうと、復旧は容易ではありません。舗装をすべて剥がし、水を排出し、場合によってはブロックを入れ直すといった作業が必要になります。

考察:工法の「特性」を理解する重要性

EPS工法は優れた工法ですが、それは「水」の管理が徹底されていることが前提です。ケース3の埋め戻し工法では「水抜き」が不十分だと「陥没」につながりましたが、EPS工法では逆に「隆起」という問題を引き起こします。

ピットの防水処理や排水設計をいかに確実に行うか。その工法のメリットだけでなく、デメリットとリスクを理解している業者を選定する必要があります。

まとめ:計画をより良く進めるために

機械式駐車場の平面化は、管理費の削減や安全性の向上など、多くの管理組合にとって魅力的な選択肢です。ただ、この記事で見てきたように、そのプロセスにはいくつか気をつけたい点があります。

計画の「合理性」と「住民の想い」

まず考えたいのが、「人」の問題、つまり住民の皆さまの合意形成です。ケース1で見たように、どれほど数字の上で合理的な計画を立てたとしても、変化への不安や今ある設備への愛着といった「想い」への配慮が足りないと、総会で計画が思うように進まなくなってしまうこともあります。数字上のメリットだけでなく、丁寧に想いを汲み取り、不安を和らげていくプロセスがとても大切です。

工法ごとの「特徴と品質」の見きわめ

次に考えたいのが、「技術」の問題、つまり工法の選び方と施工の品質です。これは平面化がうまくいくかどうかを左右する、重要なポイントになります。

例えば、よく採用される鋼製平面化工法(ケース2)は、一見どれも同じように見えても、実際にはメーカーごとに使う素材や錆(さび)への対策に違いがあるものです。専門家でない理事会の方々がその差を見抜き、長く安心して使える業者を選ぶのは、なかなか難しいことかもしれません。

また、埋め戻し工法(ケース3)のように、完成すると中が見えなくなってしまう工事では、業者の誠実さがとても大切になります。「転圧」という土を固める作業や、「水抜き穴」の処理といった基本的な作業が丁寧に行われないと、数年後に「陥没」という形で問題が出てきてしまいます。

さらに、EPS工法(ケース4)を選ぶ場合には、その工法が持つ特徴(=水の浮力による「隆起」のリスク)をよく理解し、排水や防水の対策がきちんとされているかが大切なポイントです。

メリットとあわせて考えたいこと

平面化の計画を本当に良いものにするためには、インターネットなどで語られる「メリット」だけに目を向けるのではなく、こうした「人」の想いや「技術」の面で気をつけるべき点を、あわせて知っておくことがとても大切です。

業者を選ぶときも、提示された価格だけで決めてしまうのではなく、それぞれの工法が持つデメリットや、起こり得るリスクについても誠実に話してくれるかどうか。そして、そうしたリスクを避けるための確かな技術や経験を持っているかどうか。そうした視点を持つことが、将来にわたって皆さまが安心して使える駐車場づくりにつながるのではないでしょうか。



※2025年10月27日より順次発送


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