
マンションの資産価値にも関わる問題として、「機械式駐車場の空き」が深刻化しています。かつては「駐車場が多い=便利」とされていましたが、今は状況が変わりつつあります。
その背景には、カーシェアの普及や若者のクルマ離れ、住民の高齢化といったライフスタイルの変化があります。
駐車場の空きは、単に「スペースがもったいない」というだけではありません。駐車場収入の減少は、管理組合の財政、つまり皆様の「修繕積立金」や「管理費」の会計に直接影響を与えます。
この問題を先送りにしてしまうと、将来、計画していた大規模修繕が実施できなくなるかもしれません。こうした背景から、近年では抜本的な解決策として「機械式駐車場の解体」を選ぶ管理組合が増えています。
なぜ私たちのマンションは「空き駐車場」に悩むのか?
「駐車場の空きが多いのは、管理会社の努力不足では?」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、問題の根本は、もっと別のところにあるケースがほとんどです。
- 分譲時の「需要予測」の問題: 多くのマンションは、建てられた当時、「附置義務(ふちぎむ)条例」というルールに基づき、一定数の駐車場を設置する必要がありました。この条例が作られた時代と現代とでは車へのニーズが大きく異なり、結果として、実際の需要を上回る駐車場が供給されてきました。
- 分譲時の「収支計画」の問題: マンションの販売会社が、当初の管理費や修繕積立金を低く設定し、その不足分を「駐車場が満車であること」を前提とした収入で補う収支計画を立てていることも少なくありません。
つまり、現在の空き問題は、誰かの責任ではなく、新築時の計画と現代のライフスタイルの『ズレ』から生じた構造的な課題なのです。
問題を先送りにした場合のリスク
駐車場の空き問題を「いつか考えよう」と先送りにすると、組合内で新たな問題を引き起こす可能性があります。
リスク①:利用者と非利用者の「公平感」の問題
設備の更新時期が来て、高額な費用がかかることがわかった時、住民間の意見が対立しがちです。
- 非利用者の方:「車を持っていないのに、なぜ自分たちの積立金で高額な更新費用を負担するのか?」
- 利用者の方:「これまで高い駐車場使用料をきちんと払ってきたのに、なぜ今さら追加で負担が必要なのか?」
このように、住民同士の利害が対立し、管理組合の円滑な運営に影響が出てしまうのは避けたいところです。
リスク②:将来の修繕費が「不足」するリスク
皆様のマンションの「長期修繕計画書」を一度、確認してみてください。そこに、機械式駐車場設備の「修繕」や「更新(丸ごと入れ替える費用)」が、現実的な金額で正確に計上されているでしょうか?
もし、この記載が漏れていたり、見積もりが甘かったりすると、いざ更新時期が来たときに「お金が足りない」という事態になりかねません。突然の大きな出費は、管理組合の財政を圧迫し、本来予定していた他の修繕にも影響を及ぼす可能性があります。
管理組合として「今」確認したいこと
では、私たちは何をすべきでしょうか。管理会社に任せきりにするのではなく、管理組合が主体となって現状を把握し、対策を検討することが大切です。
1. 「現状把握」:収支と計画の確認 まずは、自分たちの駐車場の「健康診断」をしてみましょう。
- 現在の契約率は、何%か?
- 駐車場の「収入」と「支出(メンテナンス費用や電気代など)」は、それぞれいくらか?
- 長期修繕計画書には、次回の更新費用はいくらと記載されているか?
2. 「会計の確認」:駐車場収入はどこへ? 次に、非常に重要な「お金の流れ」の確認です。駐車場使用料は、管理組合の会計上、どのように処理されていますか?
もし管理費会計と合算されている場合(多くの管理組合で見られる一般的なケースです)、駐車場の空きが増えると、日常の管理費会計が赤字に近づき、管理費の値上げなどを検討する必要が出てくるかもしれません。
3. 「専門家の意見」:報告書をどう読み解くか 管理会社の担当者や、点検業者は、マンション管理や点検のプロです。しかし、彼らも「機械式駐車場の解体」や、その後の土地活用といった、経営的な判断の専門家ではない場合があります。
点検業者から「そろそろ更新時期です」と言われたから更新する、という受け身の姿勢ではなく、その報告書が何を意味しているのかを理解し、組合の財政状況に合わせた判断をすることが求められます。
未来に向けた選択肢:「更新」か「機械式駐車場の解体」か
空きが目立つ状況で、高額な更新時期を迎えた場合、管理組合が取るべき選択肢は、実質的に2つあります。
選択肢①:「更新」する(これまで通り維持する)
まだ一定の需要があり、財政的にも余裕がある場合は、更新を選ぶこともできます。その際は、今後さらに空きが増えるリスクを考慮し、本当に必要な台数だけを更新する「減設(台数を減らすこと)」も合わせて検討すると良いでしょう。
選択肢②:「機械式駐車場を解体」し、維持費をゼロにする
これが、今、多くのマンションで選ばれ始めている「機械式駐車場の解体・平面化」という、設備維持の考え方そのものを見直す根本的な策です。
メリット:
- 将来の莫大な「更新費用」が不要になります。
- 毎月の「メンテナンス費用」や「電気代」もゼロになります。
平面化した土地を、平面駐車場や駐輪場、バイク置き場、カーシェアスペースなどに活用し、新たな収益源とすることも可能です。
デメリット:
- 機械式駐車場の解体やピットの埋め戻しには、当然ながら初期費用(コスト)がかかります。
- 工事期間中、利用中の車両の一時的な移動が必要になります。
まとめ:更新か、解体か。管理組合で話し合うべきこと
駐車場の空き問題は、誰かに任せるのではなく、管理組合の皆様が主体となって検討すべき大切な課題です。
大切なのは、問題を先送りせず、「自分たちのマンションにとって何が最適か」を具体的に話し合うことです。
もし管理会社や点検業者から「設備の更新見積書」が提出されたら、それは今後の駐車場のあり方を考える良い機会と言えるでしょう。
その際は、「機械式駐車場を解体・平面化した場合の見積書」も同時に取り寄せ、比較検討することをお勧めします。
「更新」と「機械式駐車場の解体」。この2つの選択肢をテーブルに並べ、どちらが皆様のマンションの資産価値を長期的に守ることに繋がるのかを組合全体で話し合うことが、最適な解決策を見つけるための第一歩となるでしょう。













