
毎月、あるいは隔月で管理組合に届く「保守点検報告書」。専門用語や数値が並んでいて、中身をよく見ずにファイルに綴じ込んでいませんか?
実はこの報告書は、単なる作業記録ではなく、将来の故障リスクや業者の質を見抜くための「健康診断書」です。 機械の知識がなくても分かる、管理組合役員が最低限チェックすべきポイントを解説します。
ポイント1:「所見・特記事項」の継続を見る
数値データよりも、点検員が手書きや入力で記載している「所見欄(備考欄)」が最も重要です。ここには機械からのSOSが記されています。
危険なキーワード
「摩耗(まもう)」「伸び」「素線切れ」「錆(サビ)」「異音」
これらの言葉見つかったら要注意です。
とくに「素線切れ(そせんぎれ)」とは? 一言でいうと「ワイヤーにできた『金属のささくれ』」のことです。 機械式駐車場のワイヤーは、髪の毛のような細い針金の束でできています。長年の使用でその一本がプチッと切れて飛び出している状態が「素線切れ」です。 一本切れたからといって即座に落下するわけではありませんが、「ワイヤー全体の寿命が近い」という明確なサインです。放置すると破断事故につながるため、絶対に見逃してはいけません。
「先月と同じ」は赤信号
過去数ヶ月分の報告書を並べて見てください。 もし3ヶ月前からずっと「チェーン摩耗、要観察」と書かれ続けているのに、何の処置もされていないなら危険です。 「いつ交換する予定なのか?」「まだ使える根拠は何か?」を業者に問い質す必要があります。
ポイント2:「緊急出動(コールバック)」の記録
定期点検報告書の中、あるいは別紙として「緊急出動報告書」などの記録があるか確認してください。ここに「稼働率低下(=故障が増えて、使いたい時に使えない状態)」のヒントがあります。
- 利用者のミスが多い場合
「センサー遮断」「鍵の抜き忘れ」などが多いなら、住民への注意喚起が必要です。 - 機械トラブルが多い場合
「昇降時のエラー停止」「異音・振動の増加」などで年に数回以上呼ばれているなら、センサーやブレーキ等の調整が限界に来ているか、制御部品の劣化が進んでいる可能性があります。都度リセットするだけの対症療法ではなく、「なぜ頻発するのか」という根本原因の調査と是正を依頼すべきサインです。
ポイント3:油(グリス)の状態と「写真」
機械式駐車場にとって、チェーンやベアリングの「給油(グリスアップ)」は寿命を左右する生命線です。
- 給油のチェック
報告書で「給油」が「良(実施)」になっているか確認します。 - 写真報告はあるか
良心的な業者の報告書には、劣化した部品や、交換作業前後の「写真」が添付されています。さらに言えば、「撮影日付が入った写真」であれば、画像の使い回しなどの不正も防げるため信頼度は格段に高いと言えます。
「契約形態」で読み方が変わる
報告書を見る際、あなたのマンションが業者と結んでいる契約が「フルメンテナンス」か「P.O.G」かによって、チェックすべき視点が180度変わります。
フルメンテナンス契約(定額制)の場合
部品交換代も月額料金に含まれている契約です。 この場合、業者は「部品を交換すると利益が減る」ため、交換を先延ばしにする傾向があります。
報告書に「摩耗」とあるのに交換されていない場合、契約内容(免責事項など)を確認した上で、対象範囲内であれば「契約内なのだから早く新品に換えてくれ」と強く要求すべきです。
※塗装や水害、特定の消耗品などは契約対象外(免責)の場合があるため、契約書の確認は必要です。
P.O.G契約(部品代別払い)の場合
機械式駐車場では、一般的にこちらの契約形態が多く採用されています。 部品交換はその都度見積もりを取り、管理組合が費用を払う契約です。
この場合、業者は「交換すれば売上になる」ため、まだ使える部品でも早めの交換を提案してくる(ポジショントーク)可能性があります。 「今すぐ換えないと危険なのか、まだ1年持つのか?」を確認し、必要ならセカンドオピニオンを取るのが賢明です。
大原則:「要交換」なら「見積書」が出ているか?
報告書に「要交換」や「推奨」と書かれている場合、必ずセットで「修繕見積書」が提出されているか確認してください。
よくあるのが、「点検業者は報告書に書いたが、管理会社がフロントで止めていて、理事会に見積書が出てきていない」というケースです。 報告書と見積書を突き合わせることで、管理会社の仕事ぶりもチェックできます。
まとめ
保守点検報告書は、単なる「作業完了の通知」ではありません。それは、将来発生しうる故障や高額な修繕費を回避するための「重要な判断材料」です。
これまでファイルに綴じ込むだけだった報告書も、以下の3つの視点を持つだけで、実用的な管理ツールとして活用できます。
- 不具合の予兆を見逃さない
所見欄にある「摩耗」「錆」「素線切れ(金属のささくれ)」といった記載は、機械の状態が悪化している証拠です。特にワイヤーの素線切れは、放置すれば重大なトラブルにつながる可能性があるため、軽視できません。 - 「点」ではなく「線」で見る
毎月同じ指摘が繰り返されていないか、緊急出動が頻発していないかを確認します。単月の結果だけでなく、過去からの経過を見ることで、業者の対応スピードや機械の劣化傾向を把握できます。 - 契約内容を踏まえて判断する
相手が「部品交換で利益が出るPOG契約」なのか、「費用を抑えたいフルメンテナンス契約」なのか。契約の特性を理解した上で、「この見積もりは妥当か?」「なぜ交換しないのか?」を考えることが、管理費の適正化につながります。
専門知識をすべて覚える必要はありません。「報告書のここに『要観察』と書いてありますが、今後の計画はどうなっていますか?」と、理事会で質問するだけで十分です。 管理組合が関心を持っていることを示し、業者に適度な緊張感を持たせることが、結果として安全で無駄のない駐車場運営を実現します。













