
いつもお読みいただきありがとうございます。機械式駐車場の相談窓口です。
「古くなった機械式駐車場、もう使わないから埋めてしまおうか」
もし今、あなたがそう考えているなら、少しだけ手を止めてこの話を読んでください。 機械式駐車場を平面化する際、大きく分けて「鋼製平面化工法」と「埋め戻し工法」の2つの選択肢があります。
私は以前、鋼製平面化工法のメーカーに在籍していましたが、当時は「埋め戻し」を積極的にお勧めすることはほとんどありませんでした。 理由はシンプルで、軟弱地盤(後背湿地など)で埋め戻しを行うと、その重みに地盤が耐えきれず、ピットの破損や地盤沈下を引き起こすリスクがあったからです。
しかし、いざコンサルタントとして街を歩き、マンションの駐車場を観察してみると、驚くほど多くのマンションが「埋め戻し」を選択している現実があります。 確かに「土で埋めて平らにする」というイメージは分かりやすく、管理組合様にとっても直感的に納得しやすいのでしょう。
ですが、専門家の視点からあえて言わせてください。 「安易に埋め戻しを選ぶのは、実はかなりグレーで危険な賭けなんです」
今回は、安易に選ぶと後悔しかねない、埋め戻しの「法律の壁」と「現実的な施工の難しさ」、そして見落としがちな「重量」の問題について解説します。
法律の壁:「埋め戻し」は不法投棄になるのか
「使わない穴だから、そのまま埋めてしまえばいい」 そう思われるかもしれませんが、ここには大きな法的な落とし穴があります。
コンクリートで作られたピット(基礎)自体は構造物ですが、機械式駐車場の装置を撤去し、本来の「装置を格納する」という役割を失った時点で、その扱いは大きく変わります。
役割をなくしたコンクリートの塊(不要となった構造物)を、解体・撤去などの適切な処理をせずに、そのまま土を被せて埋めてしまうこと(いわゆる埋め戻し)は、法律上「産業廃棄物の不法投棄」とみなされるリスクがあるのです。
本来であれば、役割を終えたピットのコンクリート躯体は、すべて解体・撤去してから埋め戻すのが原則です。 しかし、実際に「ピットを丸ごと完全撤去」する管理組合様は、極めて稀です。なぜでしょうか。
「完全撤去」が選ばれない3つの理由
ピットを完全に壊して撤去しようとすると、マンションにとって非常に大きな負担とリスクが生じます。
1. 居住者への負担が甚大(騒音・振動・粉塵)
コンクリートを破壊(はつり)する作業には、ドリルや重機を使用します。 騒音・振動について、マンション全体が揺れるほどの凄まじい音と振動が、数週間から1ヶ月以上続きます。
2. コストが数倍に跳ね上がる
装置(機械)だけの撤去に比べ、強固なコンクリートの解体・搬出費用が加わるため、工事費が3倍から5倍以上になることも珍しくありません。
3. 建物への悪影響
これが最も怖い点ですが、ピットがマンションの「基礎梁(きそはり)」と一体化しているケースがあります。無理にピットを壊すと、マンション本体の構造にヒビ割れ等の影響が出る可能性があり、最悪の場合、構造計算のやり直しが必要になることさえあります。
それでも埋めるなら…知っておくべき「グレーな現実」
「完全撤去は無理。でも不法投棄のリスクは避けたい」
そのための最適解(ベスト)は、行政と事前に協議を行い、「どのような処理をすれば不法投棄とみなされないか」を確認してから工事を行うことです。
しかし、残念ながら現実はそうではありません。 行政協議には手間も時間もかかり、場合によっては厳しい指導が入ることもあります。そのため、あえてお役所には相談せず、法的にグレーゾーンのまま、なし崩し的に埋め戻し工事が行われているケースが非常に多いのが実情です。
業者から「みんなやっていますから大丈夫ですよ」と言われても、もし後になって行政から指摘を受けた場合、その責任を問われるのは発注者である管理組合様になりかねません。
その「土」の重さ、マンションは耐えられますか
「法律上のグレーゾーン」というリスクに加えて、もう一つ、非常に重要かつ見落とされがちな物理的なリスクがあります。 それは「重量」です。

「機械を撤去して土を入れるだけ」と思いがちですが、実は土(砕石)は皆様が想像している以上に重い物質です。 場合によっては、元の機械式駐車場があった時よりも、はるかに大きな重量が基礎や地盤にかかることになります。
埋め戻すと、機械式駐車場より何トン重くなるのか。 その重さに、地盤は本当に耐えられるのか。
これを知らずに工事を進めるのは、地盤沈下を招く恐れがあり非常に危険です。
そこで、機械式駐車場の相談窓口では、「埋め戻し重量計算シミュレーター」をご用意いたしました。 これは、現在の機械式駐車場の規模やピットの深さを入力するだけで、「埋め戻した際に何トン重くなるのか」「地盤への負荷はどの程度か」を事前に確認できるツールです。
もし、埋め戻しを少しでも検討されているのであれば、取り返しのつかない事故を防ぐためにも、業者と契約する前に必ずこのツールで重量のリスクを知っておいていただきたいです。
まとめ:見えないリスクとコストを比較してください
行政協議を行わないまま進められるグレーな工事実態。 そして、数トンから数十トン単位で増加する重量への懸念。
これら全ての法令遵守コストと潜在的なリスクを天秤にかけたとき、工期が短く、既存のピットをそのまま活かせる(重量負荷も少ない)「鋼製平面化工法」の方が、結果的にコストパフォーマンスも良く、安全であるケースが多いのです。
埋め戻しのイメージのしやすさに惑わされず、見えないリスクまでしっかり比較検討することをお勧めします。
シミュレーターでの試算を含め、どちらの平面化工法が自分のマンションに適しているか迷われたら、ぜひ一度ご相談ください。













